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広島高等裁判所岡山支部 昭和47年(行コ)2号 判決

控訴人 大洋食品株式会社

被控訴人 国

訴訟代理人 清水利夫 外四名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人の当審における新請求(延滞税および還付加算金に関する請求)を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一申立

一  控訴人

原判決を取消す。

被控訴人は控訴人に対し、金二八五万一五九〇円を支払え。

(当審における新請求を含む)

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨。

第二主張

一  控訴人の請求原因

(一)  控訴人は昭和三八年六月からコーヒー牛乳の原料である乳素一号、同一号-三〇(以下本件物品ともいう)を製造しているが、岡山税務署長は右製品が物品税法(昭和四一年法律第三四号による改正前のもの、以下同じ)別表第二種第四類四一号ロ所定のコーヒーシロツプに該当するとして、昭和三八年六月分から昭和四〇年五月分までの物品税につき昭和四〇年九月一七日付で、昭和四〇年八月分から同年一二月分までの物品税につき昭和四一年二月二八日付で、昭和四一年一月分から同年三月分までの物品税につき昭和四一年五月一七日付で各更正、決定ならびに無申告または過少申告加算税の賦課処分(以下本件課税処分という)を行つた。

控訴人は右処分および昭和四〇年七月分の物品税についての右税務署長の判断に不服であつたが、止むなく一応これにしたがい(昭和四〇年七月分については申告納税による)昭和四一年一〇月一三日右本税一六四万六四〇〇円および加算税一一万三四〇〇円の合計一七五万九八〇〇円を納付した。

また、岡山税務署長はこれに対する延滞税二九万二八九〇円を昭和四一年一一月一九日に広島銀行岡山支店の控訴人の当座預金から差押徴収した。

(二)  しかし、本件物品は物品税法所定のコーヒーシロツプには該当しない不課税物品である。

その理由は、次に付加するほか、原判決事実中関係部分摘示(原判決三枚目表八行目から同六枚目表七行目までと同別紙一記載)のとおりであるから、これを引用する。

(1)  物品税法上のコーヒーシロツプは一般消費者向けの密栓殺菌したびん詰品を指すのであつて、本件のような一斗缶入りの腐敗しやすい業務用の原料はこれに該当しない。この点は、家庭用冷蔵庫が課税物品であるのに、業務用として特殊の形態、性能、用途を有する大型冷蔵庫(有効内容積〇・四立方メートル以上)や自動販売用の特殊冷蔵庫が非課税物品とされている事例からも明らかである。

(2)  また、コーヒーシロツプは希釈して飲用に供するものであるが、「希釈」とは水のような無味無臭の液体でうすめることであり、牛乳に加えてコーヒー牛乳を作る場合は、「混合」または「調味」である。したがつて、本件物品の用途はこれを希釈して飲用に供するものではなく、調味料として使用されるものである。

(三)  以上の次第であるから、本件物品がコーヒーシロツプに該当するとしてなされた岡山税務署長の本件課税処分および延滞税の徴収処分はいずれも重大かつ明白な瑕疵があるから、当然無効である。

(四)  よつて、控訴人は被控訴人に対し、右処分により納付した物品税(本税)、加算税および延滞税の合計二〇五万二六九〇円の返還とこれに対する還付加算金合計七九万八九〇〇円(本税、加算税の合計一七五万九八〇〇円に対する利率年七・三%、期間昭和四一年一〇月一四日から昭和四七年四月三日まで、および延滞税二九万二八九〇円に対する前同利率、期間昭和四一年一一月二〇日から昭和四七年月三日までの金員の合計)の支払を求める。

二  被控訴人の答弁

(一)  請求原因(一)の事実は認める。同(二)の事実中本件物品の製造工程に関する部分は認めるが、その余の主張は争う。

同(四)の還付加算金の計算関係は認める。

(二)  本件物品はいずれも物品税法別表第二種第四類四一号ロに掲げるコーヒーシロツプおよびこれに類するものに該当し、本件課税処分および徴収処分は適法である。

その理由および控訴人の主張に対する反論は、次に付加するほか、原判決事実中関係部分摘示(原判決六枚目裏末行から同九枚目表末行までと同別紙二記載)のとおりであるから、これを引用する。

(1)  控訴人主張の大型冷蔵庫等が非課税とされているのは、物品税法九条、同法施行令六条により非課税物品として規定されているためであつて、単に業務用に供されるものであるということだけで当然に非課税とされるものではない(物品税法上何を課税物品とするかは、専ら立法政策の問題である)。

(2)  控訴人は、本件物品を牛乳に混ぜるのは「希釈」でなく「調味」であるから、希釈して飲用に供するものとは異る用途をもつものであると主張するが、物品税の課税対象となるコーヒーシロツプは、希釈して飲用するに適する濃度および甘味を有する飲料の状態で移出されれば足るのであつて、それが移出後にどのような方法で希釈されるかは関係がない。また、この場合の「希釈」とはコーヒーシロツプを飲用するに適する濃度および甘味となるまでうすめるのが目的であるから、これを水だけに限定すべきではない。

三  抗弁

控訴人の延滞税二九万二八九〇円の返還請求については、消滅時効が完成している。

すなわち、過誤納金等の還付請求権は、その請求をすることができる日から五年間行使しないことによつて、時効により消滅し、これは援用を要せず、またその利益を放棄することもできない(国税通則法七四条、五六条、七二条二項)。

控訴人は、本件課税処分等は重大明白な瑕疵があり無効であると主張しているから、右の「請求をすることができる日」は、延滞税を差押徴収した昭和四一年一一月一九日である。

そして、右差押徴収の事実は、滞納者である控訴人に対し差押時には国税徴収法五四条二号に基づき差押調書謄本を、さらに取立金の配当時には同法一三一条三号に基づき配当計算書をそれぞれ書留郵便で送付しているから、その頃控訴人はこれを認識した筈である。

しかるに、控訴人はこれより五年以上経過した昭和四七年八月一七日に延滞税の還付を求めた(本訴において「控訴の趣旨訂正申立」と題する書面の提出による)から、右請求部分は既に時効により消滅している。

四  抗弁に対する控訴人の認否および再抗弁

(一)  被控訴人主張の差押調書謄本および配当計算書を受領したことはなく、差押徴収後数年間は右事実を知らなかつたから、時効期間は経過していない。

(二)  被控訴人主張の消滅時効は控訴人の本訴提起により中断したものである。

すなわち、国税通則法七三条四項は国税(附帯税および国税の滞納処分費を除く)の徴収権の時効が中断したときは、その延滞税または利子税の徴収権の時効も中断する旨規定している。このように、本税と延滞税は徴収の段階で恰も元本と利息のような関係に相当するから、還付の段階においても本税につき時効が中断すれば、当然その効果は延滞税にも及ぶものである。

五  再抗弁に対する被控訴人の反論

国税通則法七三条四項は還付に関しては適用がない。

すなわち、徴収の段階では本税と延滞税は元本と利息の関係に相当するが、これらが一旦納付され、何らかの原因で過誤納金として還付される段階においては、右両者には各別の還付加算金が付され、本税の還付請求権の延滞税のそれとは別個独立の還付請求権になるのであるから、本税の還付請求権についての時効中断の効力が延滞税のそれに及ぶとする控訴人の主張は理由がない。

第三証拠

当事者双方の証拠関係は、原判決事実摘示第三のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  控訴人がその主張の頃から本件乳素一号、同一号-三〇を製造し、その製造工程が原判決別紙一記載のとおりであること、岡山税務署長が本件物品は物品税法別表第二種第四類四一号ロ所定のコーヒーシロツプに該当するとして本件課税処分をしたこと、控訴人がその主張の日に右課税処分ないし岡山税務署長の右判断にしたがいその主張の金額の物品税およびその加算税を納付したこと、さらに控訴人主張の日に岡山税務署長が控訴人の預金債権からその主張の金額の延滞税を差押徴収したことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、本件物品が物品税法所定のコーヒーシロツプに該当するか否かにつき検討することになるが、当裁判所も本件乳素一号、同一号-三〇は物品税法別表第二種第四類四一号ロ所定のコーヒーシロツプに該当すると判断するものであつて、その理由は、次に付加するほか、原判決理由中関係部分説示(原判決一〇枚目表一〇行目の「成立に争いのない」から同一三枚目裏六行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

(一)  控訴人は、物品税の課税対象となるコーヒーシロツプは消費者向けの密栓殺菌したびん詰品であつて、本件の如く一斗缶入りの腐敗しやすい業務用の原料はこれに該当しない旨主張するが、物品税法は物品の種類、性質、課税上の技術面から 第四種物品については小売業者による小売の段階で、第二種物品については製造者からの移出の段階に各課税の時期を求めており(同法三条)、また課税標準も原則として第一種物品は小売価格であるのに、第二種物品は卸売価格(適正な市場価格)であり(同法一一条)、このような両者の相違からみると、第一種物品が直接消費面を対象としているのに比し、第二種物品は必ずしもそうでなく、主として卸取引形態を対象としていることが明らかである。したがつて、本件物品がその製造目的、原料の内容、使用割合、製造工程等から綜合判断して、物品税法所定のコーヒーシロツプに該当するものと認められる以上、たとえ現実の用途がコーヒー牛乳製造の原料として牛乳処理業者に移出販売されるものであつても、この一事から非該当ないし非課税物品と解することはできないから、控訴人の右主張は理由がない。

なお、控訴人主張の大型冷蔵庫等が非課税とされているのは、物品税法九条、同法施行令六条により特に課税しない旨規定されている(控訴人のいう有効内容積〇・四立法メートル以上という定めは昭和四三年政令第六五号による右施行令の改正により設けられたものである)ためで、問題のコーヒーシロツプについてはこのような非課税規定がないから、その形態、用途等の差異にかかわらず一律に課税されてもやむを得ないのである。

(二)  また、控訴人は、コーヒーシロツプは稀釈して飲用に供するものであるが、「稀釈」とは水でうすめることであり、牛乳に加えることは「調味」であるから、本件課税対象物品は調味料である、と主張する。しかし、「稀釈」とは水その他の溶媒(溶液)を加えてうすめることであつて、水のみに限らず牛乳でうすめることも稀釈であり、しかも、これを牛乳でうすめてコーヒー牛乳を製造しても、コーヒー飲料としての特性は失われないから、コーヒーを主成分とする本件物品は滋養、調味ないし保健飲料としての性格よりも、しやし的用途に用いられるし好飲料としての性格をより強く有しているものとみるのが相当である。

三  以上の次第で、本件乳素一号、同一号-三〇は物品税法所定のコーヒーシロツプに該当するもので、控訴人のこの点に関する主張は採用しがたいので、控訴人の本訴請求はその余の点につき判断するまでもなく失当として棄却を免れない。

よつて、これと同旨の原判決は相当であつて、本件控訴と当審における新請求はともに理由のないものとして棄却することとし、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 辻川利正 永岡正毅 熊谷絢子)

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